Oncogene誌に横山 慶人先生のT細胞性リンパ腫細胞において、がん細胞を細胞死へ導く薬剤であるナビトクラクス*1の感受性を調節する、新たな分子経路を明らかにした論文が掲載されました。
リンパ腫グループ(Principal Investigator: 中川雅夫講師)から医学院博士課程 横山 慶人先生の論文 "Genome-wide CRISPR screens identify an RXR–MYLIP–LDLR axis regulating BH3 mimetic sensitivity in peripheral T-cell lymphomas"(全ゲノムCRISPRスクリーニングにより、末梢性T細胞リンパ腫におけるBH3ミメティクス*2感受性を制御するRXR–MYLIP–LDLR経路を同定)が2026年8月25日(月)公開のOncogene誌(Impact factor: 8.1)にオンライン掲載されました。以下にその概要を記します。
PTCLは成熟T細胞由来の悪性リンパ腫であり、一部の病型を除き既存治療に対する反応性は限定的であることから、予後改善に向けた新規治療法の開発が求められています。
研究グループは、ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9*3を用いてPTCL細胞株内の約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、ナビトクラクス感受性に関わる遺伝子を探索しました。その結果、低密度リポ蛋白受容体(low density lipoprotein receptor; LDLR)の分解を促進する酵素であるMyosin regulatory light chain interacting protein(MYLIP)を新たな感受性因子として同定しました。MYLIPを欠失させると、細胞表面のLDLRが増加し、コレステロールの取り込みとナビトクラクスへの感受性が増強しました。LDLRの分解を促すPCSK9*4を加えると、この薬剤感受性の増強が抑えられたことから、LDLRの増加が重要な役割を担うことが示されました。マウスモデルでも、MYLIPを欠失させた腫瘍ではナビトクラクスによる抗腫瘍効果が強まりました。これらの結果から、コレステロール代謝を制御する「MYLIP–LDLR経路」が、PTCLにおけるナビトクラクス感受性を調節することが示されました。
本研究成果は、MYLIPの発現量やLDLRを介したコレステロール取り込みを指標として、ナビトクラクスが効きやすい患者を選別する方法や、新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。
なお、本研究成果は、2026年8月25日(火)公開のOncogene誌にオンライン掲載されました。
【用語解説】
- ナビトクラクス … 細胞に本来備わっている細胞死の仕組み(アポトーシス)を誘導する薬剤。アポトーシスを抑制するBCL-2、BCL-XLというタンパク質の働きを阻害するBH3ミメティクスの一種。
- BH3ミメティクス … BCL-2ファミリー*5の一部に特徴的な構造であるBH3ドメインを模倣した薬剤の総称。
- CRISPR-Cas9 … DNAの二本鎖を切断することで、ゲノム配列の任意の遺伝子を欠損、挿入する遺伝子改変技術のこと。
- PCSK9 … 主に肝臓で作られる分泌タンパク質で、LDLRの分解を促進する。
- BCL-2ファミリー … 細胞のアポトーシスを制御するタンパク質の一群。