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Leukemia誌にリンパ腫研究グループから節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫(nTFHL)における分子分類を解明した論文が掲載されました。

リンパ腫グループ(Principal Investigator: 中川雅夫講師)から下埜城嗣先生の論文 " TP53 and CDKN2A Alterations Define a Poor Prognostic Subgroup in Patients with Nodal T Follicular Helper Cell Lymphoma "202552()公開のLeukemia誌(Impact factor:12.8)にオンライン掲載されました。以下にその概要を記します。

北海道大学血液内科学教室 リンパ腫研究グループは、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野、慶應義塾大学医学部内科学教室(血液)、久留米大学医学部病理学講座と共同で、予後不良な悪性リンパ腫のひとつである節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫(nTFHL)の遺伝子異常の全体像と、それに基づいた分子分類(1)の臨床的有用性を明らかにしました。

悪性リンパ腫は、血液を構成するリンパ球に由来する血液がんの一種です。本研究の対象であるnTFHLは、その中でもT細胞に由来する末梢性T細胞リンパ腫に分類され、病理学的にはPD1ICOS等のT濾胞ヘルパー(TFH)関連マーカーを発現し、遺伝学的にはRHOA G17VTET2IDH2等のエピゲノム修飾因子やT細胞受容体シグナル経路を活性化する遺伝子変異を特徴としています。nTFHLは一般的には予後不良でありながら、一部には緩徐に進行する症例も存在するなど、臨床的に不均一な疾患であり、より鋭敏な予後予測因子の探索やそれに基づいた適切な治療選択が必要です。

本研究では、これまでに報告されたnTFHLを対象とした遺伝子解析研究としては最大の173例を対象に、T/NK細胞腫瘍における242個のドライバー遺伝子を対象とした標的シーケンスを用いて変異(※2)とコピー数異常(※3)の解析を行いました。その結果、4個の新規遺伝子(TET3HLA-CKLF2NRAS)を含む36個のドライバー遺伝子(※4)を同定し、これらの遺伝子異常の多様性がnTFHLの臨床的な不均一性と関連していることが示唆されました。

これらの解析結果に基づき、TET2RHOAIDH2TP53CDKN2A異常に着目して臨床像や生命予後の異なる4つの分子亜型からなる分子分類を作成しました。特に、TP53CDKN2A異常を有する亜型(AC53)は極めて予後不良である一方で、これらのいずれの異常も認めない亜型(NSD)は予後が良好でした。これらの結果に基づいて、①TP53またはCDKN2Aの異常、いずれかのドライバー異常、臨床因子である国際予後指標(IPI)(※5)の高リスク、の3項目により構成される臨床遺伝学的予後予測モデル「mTFHL-PI」を開発しnTFHLの予後が層別化されることを示しました。

本研究の成果により、nTFHLにおける遺伝子異常の全体像が明らかとなり、その情報が予後層別化に有用であることが示され、今後の個別化医療や新規治療開発の基盤となることが期待されます。

【用語解説】
※1分子分類:遺伝子異常の有無や遺伝子発現の違いといった情報によって腫瘍の亜型を分類すること。
※2変異:ゲノムDNAに生じる異常の一種で、1から十数塩基対程度の短い挿入・欠失や一塩基置換からなる。
※3コピー数異常: 正常では2コピー(父由来・母由来)あるゲノムDNAが、1コピー以下(欠失)、あるいは3コピー以上(増幅)となっている現象。
※4ドライバー遺伝子・ドライバー異常: 異常をきたすことで、がんの発生・進行などの直接的な原因となる遺伝子のこと。がん遺伝子とがん抑制遺伝子からなる。ドライバー遺伝子に生じ、がんの発生や進行に関与する異常をドライバー異常と呼ぶ。
※5国際予後指標(International Prognostic Index, IPI): アグレッシブリンパ腫の予後指標の一つであり、年齢、血清LDH値、performance status、病期、節外病変数の5つの臨床因子から構成される。 

>>論文の詳細はこちら:https://www.nature.com/articles/s41375-025-02631-5

>>北海道大学病院のプレスリリースは
Webサイト
https://www.huhp.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2025/05/20250526_press.pdf