留学体験記

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カリフォルニア大学サンディエゴ校モーレスがんセンター 平成10年卒 小原 雅人

平成23年2月より米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)Thomas J. Kipps 教授の元で研究留学しております。妻と2名の子供(9歳の息子と6歳の娘)を連れての留学生活を少々ご紹介いたします。

研究内容について

当ラボは、UCSDキャンパス内のMoores Cancer Center 4階にあります。その名のとおり、5階建ての建物の1階は外来がん化学療法センターとなっており、外来の隣に10数席のリクライニングシートが化学療法のために用意されています。建物の3階から5階が研究施設であり、1フロアに3−4つのラボが入居し研究活動を行っています。フロアは巨大な共有スペースに約20列の実験台が並んでいます。隣のラボとの連携が物理的に取りやすく、機器の融通などが効きやすいメリットがあります。

昨年春のラボの集合写真です。総勢30名以上

筆頭研究者(Principal Investigator)であるThomas J. Kippsは、慢性リンパ性白血病(CLL)を研究テーマとしているM.D. / Ph.D.です。臨床医として外来で患者さんの診療にあたる傍ら、研究室の運営もしており、日本の臨床教室の教官に近い働き方です。また、全米のCLL研究治療施設の連合体であるCLL Research Consortium (CRC) の代表も務めており、当ラボがCRCのデータ・検体管理をになっております。
 ラボのメンバーはポスドクやテクニシャンなど研究職の人間のみで20名程度、秘書さんや財務担当者などを合わせると30名近い大所帯です。日本の臨床教室と違う点は、研究者にアメリカのM.D.がおらず、米国外の医師免許保持者も私含めて2名のみであることです。メンバーの国籍は、アメリカ(全体の半分弱)・日本(私だけです)の他、中国(10名程度?)・カナダ・フランス・イタリア・スイス・チェコ・台湾・インド(以上各1名)など多岐にわたります。

ラボではCLLに関する研究が、多方面から、多種多様な手法手技を用いて行われています。腫瘍特異的表面抗原に対するモノクローナル抗体の開発、マウスモデルを用いた新規薬剤の効果判定、患者検体を用いたシグナル伝達解析、微小環境下での腫瘍生存…。この中で、私が関わっているのが、トランスジェニックマウスを用いた腫瘍発症機構の解明と、ある特定の遺伝子異常がCLL発症と予後に与える影響の検討です。CRCでは数千名に及ぶ患者さんの白血病細胞をストックしており、すぐにこの細胞へアクセス出来ることが当ラボ最大の強みです。遺伝子異常の研究では、このメリットをフルに活かし、患者検体の核酸・タンパク・細胞を利用して研究を進めております。

日々の仕事について

同僚の誕生日にラボで簡単な持ち寄りパーティーを行った時の写真です。左端から私、イタリア人のEmanuela, アメリカ人のMichelle, フランス人のMaria.

平日は朝8時半から9時の間にラボへ着きます。渡米当初は8時くらいには行っていたのですが、結局だんだん日本と同じ生活サイクルになってしまいました。日本に居た頃と違い臨床業務はないので、着いてすぐに実験開始です。昼食をはさみ、だいたい午後7時から7時半くらいまでラボにいます。帰宅し、夕食を取り、子供の宿題を手伝い、日によってはラボに戻り実験の続きをすることもあります。土日は基本休みですが、私含めて一部のポスドクが数時間実験しにラボへ現れます。ラボでの定期行事は毎週水曜日朝のミーティングと木曜日夕方の抄読会で、どちらも2−3ヶ月に一度程度発表が回ってきます。

たまに誰かの誕生日や送別、出産記念などでポットラックパーティーと呼ばれる料理持ち寄りパーティーが催され、日本人である私は毎回寿司のリクエストを貰います。その都度妻に太巻きを作ってもらっていますが、今のところ評判上々です。

サンディエゴでの生活について

サンディエゴはカリフォルニア州の最南端に位置する人口130万人ほどの都市です。街の規模は札幌とほぼ同じくらいで、車で30分も走ると大自然の真っ只中です。別名 ”America’s Finest City” と呼ばれるほど晴天率が高く、6月から11月には雨がほとんど降りません。気温変動は年間通して少なく、一年を通して30℃を超えることも、5℃以下になることもまずありません。街路樹は植樹されたヤシの木が多く、風景は日本人のイメージするカリフォルニアそのものですが、前述のとおりの気温なので、ビーチへ行っても若干肌寒いことが多いです。ただ肌寒い中、白人の方々は水着で遊びまわっており、「寒さ」の基準が若干違うようです…。四季のはっきりした札幌から来た身としては、季節の変わり目を実感することが少なく若干寂しいですが、慣れれば暮らしやすいと思います。

スペイン統治時代、18世紀に建造された修道院です。

市の南端がメキシコ国境で、また19世紀半ばまでメキシコ領でした。このため、道の名前や建築物に南欧やメキシコの影響が色濃く見られますし、街中でスペイン語が普通に通用します。メキシコ料理の美味しいお店もたくさんあります。また、アメリカ海軍第三艦隊の母港を抱え、軍都としての一面も持っています。アジア系の移民が多いのもサンディエゴの特徴で、日本食を含めアジア食材の調達に困ることはありません。タイ料理・ベトナム料理・中華料理などのレストランも充実しており、「アメリカ=食事が美味しくない」のイメージは、(店を選べば)サンディエゴには当てはまらないと思います。
 UCSD周辺は日本人のみならず海外からの研究者が多数在住しており、子供達の通う公立小学校は20以上の国籍を持つ子供達で構成されています。学校では毎年インターナショナルフェスティバルというお祭りが開催され、各国出身者がブースや出店を出し、子供達が各国ゆかりのダンスや歌を披露します。

余暇について

昨年夏に家族でヨセミテ国立公園へ旅行した時の写真です。

週末は買い物、息子のサッカーの試合、スポーツ観戦、自宅でのパーティーやバーベキュー、1泊キャンプなどをして過ごしております。アウトドア用品が安く、公共の公園やキャンプ場が充実しており、かつ雨がほとんど降らないので、アウトドアレジャーには絶好の環境です。また日本に居る時からたまにハーフマラソンへ出場していたランニングもぼちぼち続けており、渡米1年ちょっとでハーフ2回、フル1回に出場しました。

長期休暇を利用してドライブ旅行へも出かけています。夏休みにはヨセミテ国立公園とサンフランシスコへ3泊4日で、感謝祭の連休にはグランドキャニオン・デスバレー・ラスベガスへ4泊5日で行きました。

渡米しての雑感

当ラボが特にそうなのかも知れませんが、多様な文化圏から人が集まっているため、最低限のルールを守れば、後は細かいことは言わない雰囲気があります。というか、細かいことを気にしていると仕事にならないので、相手へのリスペクトを忘れず、後は相手流を尊重して仕事をするようにしています。

UCSDから車で5分のところにあるラホヤビーチの夕焼けです。

ときどき、「〇〇人はいい加減」とか、「〇〇人は期限を守らない」等の話を聞きますが、個人的な感想では「特定の出身国ごとにそういう傾向はあるが、結局はその個人次第」だと考えます。その人の属性に囚われず、相手ひとりひとりがどういう人か見極める事を大事にするようになりました。「多様性=diversity」の国で、外国人(私です)が生きていくために必要な処世術だと思います。

研究留学をお考えの方へ

可能な限り早い時期での留学を検討しましょう。若いうちの方がいろいろと無理が効きます。家族や子供がいることで生活の安定は得られますが、経済的時間的には自由が効きません。また年齢が上がる毎に奨学金獲得のチャンスが減ります(大抵の奨学金は年齢制限があります)。

英語はできるだけやっておきましょう。特にリスニングは独学でもトレーニング可能ですし、そもそも相手の言っている事が分からないと議論がスタートしません。

選択の余地があれば、留学先のラボ選びは色々と考えましょう。当地に留学されている他の研究者からの話を聞くと、それぞれのラボの良い所・悪い所が見えてきます。当ラボのような大きなラボは、資金や検体が潤沢である反面、細かい相談や指導はあまり期待できません。小さなラボは当然この逆で、テーマが限定され、万が一メンバーとの相性が悪いと大変な反面、ボスとのコミュニケーションが取りやすい環境が期待できます。

最後になりましたが、不出来な私を留学へ送り出して下さった血液内科の皆様に御礼申し上げます。