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北海道大学病院 血液内科における同種造血幹細胞移植の概要

北海道大学病院 血液内科(以下、当科)では1988年から同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)治療を行ってきました。同種移植が適応となる血液疾患の患者さんには積極的に移植医療を提供しており、1988年から2022年末までの期間に計964名の患者さんに同種移植を行いました。この964名の患者さんの詳細についてお示しします。

患者さんの平均年齢

当科で同種移植医療を受けた患者さんの平均年齢は45歳(最低15歳、最高73歳)でした。

同種移植の対象疾患

急性白血病(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病)の患者さんへの同種移植件数が最も多く、半数以上を占めていました。次いで悪性リンパ腫、骨髄異形性症候群の順に行っています。

年別にみた同種移植件数

2000年以降、当院で行っている同種移植件数は増加傾向にあり、ここ7年間は年間50件以上の同種移植を行っています。全国には同種移植を行う施設が250施設以上ありますが、当科の同種移植件数は全国トップ10に入ります。これは、医師、看護師、薬剤師、歯科医師、管理栄養士、リハビリ技師、移植コーディネーター等の良好なチームワークと、同種移植経験の積み重ねが寄与したものと考えています。

また、これまで同種移植の適応であってもドナーが見つからない患者さんや、病気の状態などから骨髄バンクでの移植調整が間に合わない患者さんは、同種移植を受けることができませんでした。この問題を克服するため、当院では親子間移植に代表される「移植後シクロホスファミド法を用いたHLA半合致移植」という新しい移植法を日本に導入するため、臨床研究を進めてきました。この取り組みがもとで、現在ではこの移植法が実臨床でも行うことができるようになり、移植が必要なほぼ全ての患者さんに、同種移植を提供できるようになりました。

移植ソース別にみた同種移植件数(年別)

造血幹細胞移植は、移植する造血幹細胞源(移植ソース)によって、骨髄移植・末梢血幹細胞移植・臍帯血移植の3つに分けられます。

骨髄:造血幹細胞は骨髄の中にいます。骨髄移植を行う場合、ドナーさんの骨髄から直接、造血幹細胞を採取します(手術室で行います)。

末梢血幹細胞:ドナーさんに白血球を増やす注射剤であるG-CSFを数日間投与することで骨髄から末梢血中へ造血幹細胞が出てくることが知られています。この末梢血中へ出てきた造血幹細胞を採取します(検査輸血部で行います)。

臍帯血:出産の際に母親と子供を結ぶ「さい帯」から採取した血液で、この中に造血幹細胞が含まれていることが知られています。

2000年頃より血縁者・非血縁者ドナーからの骨髄移植に加えて、臍帯血移植や血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植が可能になりました。2010年以降は、非血縁者ドナーからの末梢血幹細胞移植が可能になりました。また前述のHLA半合致移植を行う際、当院では末梢血幹細胞移植で行っていることから、最近では特に末梢血幹細胞移植の割合が増加しています。

疾患別にみた年別同種移植件数

どの年代においても急性白血病への同種移植件数が多いことが見てとれます。一方で、慢性骨髄性白血病(CML)に対する同種移植は2000年〜2002年をピークに著しく減っています。これは新薬(チロシンキナーゼ阻害薬)が開発されたことにより、大部分のCML患者さんは移植をしなくても病気をコントロールできるようになったからです。一方で、CML患者さんの一部は急性白血病に移行することがあり(急性転化)、その場合には同種移植が行われます。
2000年以降になると悪性リンパ腫への同種移植件数が増えています。悪性リンパ腫は50歳以降での発症が多く、高齢になる程発症率が高くなります。この頃、移植前処置に使用する抗がん剤の強度を減らした移植法(後述)が開発され、より高齢の患者さんに対しても移植を行うことができるようになったため、悪性リンパ腫についても、主に難治性の患者さんを対象に、幅広く同種移植を行うことが可能になりました。一方で、悪性リンパ腫の種類によっては、移植前に病気のコントロールができていないと移植の効果が得られにくいこと、またキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法を始めとした新規治療法の開発もあり、最近では悪性リンパ腫に対する同種移植件数がやや減っています。

移植前処置別にみた同種移植件数(年別)

移植前処置とは、①病気をやっつけるため、②移植するドナーさんの造血幹細胞を体の中に根付かせるため、移植の前に行う抗がん剤療法や放射線療法のことです。

移植前処置の強さによって、骨髄破壊的前処置(通称フル移植=強い前処置)と強度減弱前処置(通称ミニ移植=強さを弱めた前処置)の大きく二つに分けられます。
フル移植では大量の抗がん剤や放射線照射を使用するため、高齢の患者さんや合併症のある患者さんには行うことができません。2000年以降にミニ移植が徐々に普及し、幅広い患者さんに同種移植を行うことができるようになりました。

最後に、ここにお示ししたデータはあくまでも当科のデータであり他施設の移植状況を反映するものではありません。また治療法の進歩に伴い、移植適応や移植方法も異なってきます。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

2023年4月13日現在