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留学体験記

オスロ大学病院/平成18年卒/金谷 穰・小杉 瑞葉

写真:金谷 穰・小杉 瑞葉

2018年5月から北欧ノルウェーの首都オスロにあります、Oslo University Hospitalにて腫瘍免疫の研究をさせて頂いております。渡航から3年が経過しました。留学にあたり、ご推薦を頂きました北大血液内科の豊嶋崇徳教授、筑波大学免疫学研究室の渋谷彰教授に厚く御礼申し上げます。また留学に際し、有形無形のご支援を頂きました、筑波大学免疫学研究室の鍋倉宰助教、北大血液内科の橋本大吾准教授、愛育病院血液病センターの近藤健先生、盛暁生先生にこの場を借りて御礼申し上げます。

留学までの経緯

私(金谷)は2006年に旭川医大を卒業後、北大血液内科に入局しました。大学院時代に、筑波大学免疫学研究室(渋谷彰教授)に国内留学の形で所属し、T細胞上の活性化免疫受容体であるDNAM-1に関する研究をさせて頂き、学位を取得させて頂きました。DNAM-1は、渋谷彰教授ご自身が米国留学中に同定された分子で、NK細胞での役割も多く知られています。私は学位取得後は海外でNK細胞、特に血液内科医のバックグラウンドを活かしやすい、ヒトのNK細胞研究を行いたいと思っていました。

NK細胞はヒト末梢血中に数パーセントしか存在しない地味な細胞で、免疫研究者のうち、NK細胞研究を行う人の割合もその程度しかいないと思われます。特に、ヒトNK細胞に特化したlabとなると、世界広しと言えども、数は多くはありません。受け入れlabを探すにあたり、渋谷研時代の先輩でマウスのNK細胞研究をされている鍋倉宰先生のアドバイス、論文や学会情報からhuman NKの研究室をピックアップし、ポスドクとして雇ってもらえないかどうか、e-mailを送るという作業を行いました。最終的に良い返事をもらえたのが、Karl-Johan Malmberg教授(皆、彼のことをKalleと呼びます)でした。また、非常に幸運なことに、大学院時代に東京大学分子予防医学教室の松島綱治教授(現東京理科大学)の元でT細胞研究を行っていた妻(小杉)も同じlabでpost-docとして雇用して頂けることになりました。Kalleの母校である、ストックホルムのカロリンスカ研究所はCD8+T細胞とNK細胞の両者を比較することで、新たな知見を見出す、という研究スタイルが伝統であり、妻はT細胞の研究要員として雇用していただいております。

Kalleは、KIR、NK細胞のeducation、NK細胞分化を専門としていますが、血液内科医のバックグラウンドがあり、DNAM-1に関する論文も多数執筆しています。血液内科、DNAM-1など、何かと私達に縁を感じてくれたのだと思います。私達は夫婦で同業かつ同じようなキャリアであり、同じタイミングでの留学の希望がありましたが、同時に就職できる場を探すと言うのはほぼ無理だと思っていました。しかし、二人共ポスドクとして、かつ良い条件で同じラボに雇用して頂けたというのは本当に幸運なことでした。世界中を必死に探せば、必ずどこかで良い出会いがあるものだと、つくづく感じます。

ラボ紹介、研究内容紹介

Kalleは、オスロ大学とカロリンスカ研究所(1970年代にNK細胞を発見した施設)に二つのlabを構えています(本人はオスロ在住)。多くのlab meetingやコラボレーション施設・企業とのmeetingは、コロナ禍以前から、WebexやZoomを用いてきました。また、lab内の連絡事項のほぼ全ては、Slackを用いて行われており、IT化されたlabです。私のメインの仕事は、San Diegoのバイオ企業であるFate therapeuticsとのコラボでiPSC-derived NK cell (iNK)、特にiNK-CD19-CARに関わるものです。Fateは、iNK細胞療法のleading companyで、すでにiNK-CD19-CARを含む、iNK細胞療法の治験を複数開始しています。私はiNK-CD19-CAR上のNKG2A受容体に着目した仕事を主に行なっています。一方、小杉はhealthy donor PBMC、腫瘍検体を用いたT細胞研究、特にself KIRからのinhibitory signalingによりエフェクター機能を保持し高い傷害活性potentialを維持するという、”NK cell education”の考え方をT細胞に発展させた研究を行なっています。他にも、いくつかのプロジェクトをメンバー間で共有しています。

研究には、浮き沈みがつきものですが、仮に実験が失敗に終わっても、ネガティブデーターであっても、Kalleは我々を鼓舞してくれます。大きな発見は、ネガティブデータの中に存在する、と彼は言います。そもそも、NK細胞は、マウスのがんワクチン実験のコントロールサンプルから偶然発見された、という経緯があります。また、彼は、良いデータを得ることよりも、実験そのものに習熟すること、いわゆる“決めデータ”の背後にある、細かいデーターを把握していく過程が何よりも重要だと言います。「Scienceは、原則的に我々の考える範囲の外にあり、思った通りにはいかない。得られたデータをつぶさに観察して、次につなげるのが重要である」と彼は言います。ヒト検体の解析で生きてきた研究者ならではの意見だと私は感じます。そして、その姿勢は、医師でありながら、研究も行う者にとっての、大きな気付きであり、学ぶべき点だと思っています。

ノルウェーでの生活から学んだ点
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ノルウェーの風景

挙げるとキリがありませんが、ノルウェーには特徴が多くあります。労働時間が短い、物価が極めて高く、税金も極めて高いが、給与も比較的高く、高福祉で老後は比較的高額の年金が保障されています。貧富の差が少なく、人種差別も少ないです。現金を使うことはほぼなく、日常の買い物含めて、電子決済がメインです。古くからマイナンバーが導入されており、公的な手続きの多くは電子化されています。環境問題への意識が高く、極めて高い電気自動車の普及率を誇ります。ノルウェーは豊かな自然に溢れ、皆が自然の中で過ごす時間を本当に大事にしており、夏はハイキング、冬はクロスカントリースキーを全国民が楽しみます。また、我々世代にとって重要なのは、男女平等先進国で共働きが当たり前であること、保育園・小児保健が充実していることです。特筆すべきは幼児教育で、保育園に通うことは社会性を学ぶ場であり、子供の権利とされています。息子も、現地の保育園で様々なバックグラウンド・キャリアを持つ先生方と触れ合い、多様性も学んでいます。また、自然を愛する北欧らしく、子どもたちはどんな天候でもきちんと装備をして、外の自然の中でたっぷりと時間を過ごしています。

このように、社会的弱者を守り、可能な限り平等で、持続可能な社会を目指している点で、北欧を理想的な社会として捉える向きもあるのかもしれませんが、良い悪いを越えて、これらの特徴は、人口500万人の小さな国だからこそ、達成できている点も多いと私は思います。また、ノルウェーは、産油国という別の顔も持ち合わせています。実際、ノルウェーは産油国となったここ数十年で豊かになりました。そして、冬季は極めて日照時間が短く、冬季うつになりやすい、食材含めて買い物のレパートリーが極端に少ない、日曜日はあらゆる店が閉まっている、酒類が極めて高い、娯楽が少ない、など日本と比べると、当初は不便と感じた面も数多くありました。以前の美酒佳肴を求めていた暮らしからライフスタイルも大きく変わり、子供とともに自然の中でシンプルにのんびりと過ごしています。

私達は偶然にも、コロナ禍前のノルウェーとコロナ禍後のノルウェーの両方を経験しました。ノルウェーは幸いにも、ヨーロッパの中ではコロナに最もうまく対応している国の一つです。日単位で変化するコロナの感染状況・ワクチン含めたコロナの最新情報に対応する上で、500万人という小回りの効く人口規模が、国としてのコロナ対策にプラスに働いていることは、間違いないと思います。また、あくまで個人の感想ですが、子供・高齢者・移民などの、社会的弱者を守るという基本姿勢が、コロナ対策に対しても、プラスに働いているようにも感じています。

最後に

ノルウェーに研究留学をする日本人、特に医学研究で留学する日本人は非常に稀です。実際、私達が、今所属する施設にも、日本人は私達夫婦しかおりません。ノルウェーでの医学研究を検討されている、留学予定のある方は、minorukanaya0429@gmail.comまで、お気軽にご連絡くださいませ。