血液は、赤血球・白血球・血小板などの血球成分と、タンパク質や電解質などを含んだ液体の血漿(けっしょう)成分があります(図1)。赤血球は全身に酸素を運ぶ働きがあり、白血球は細菌やウイルスなどの外敵と戦う役目をもっています。また、血小板はケガなどで出血したときに血を止める働きをもっています。血漿中には、白血球と共同して感染から体を守る免疫グロブリンというタンパクや、血を固めるために必要な成分である凝固因子などが含まれています。
血球は「骨髄」と呼ばれる骨の中心にある海綿状(スポンジ状)の組織で作られます。骨髄の中には様々な血球のもとになる「造血幹細胞」と呼ばれる細胞が住んでいます。造血幹細胞は、自分で増える能力(自己複製能)をもつばかりでなく、赤血球・白血球・血小板などの様々な細胞に成長していく能力(多分化能)をもっています(図2)。この「自己複製能」と「多分化能」という2つの機能により、一生を通じて血液が作られるのです。
血液内科では、血液の成分や、血球を作る工場である骨髄・リンパ節に異常をきたす病気を専門に扱っています。具体的には、白血病や骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍、再生不良性貧血などの血球をうまく作れなくなる病気、血小板減少症や血友病などの出血しやすく、血が止まりづらい病気などがあります。
血液疾患の診断をつけるには、血液(末梢血)を調べるばかりでなく、骨髄に針を刺して骨髄液を採取したり、腫れているリンパ節を手術でとって調べたりします。
血液疾患の治療法は病気の種類によって様々ですが、抗癌剤、ステロイド剤、造血因子、輸血、血液製剤などが用いられます。血液悪性腫瘍や重症の再生不良性貧血に対しては、造血幹細胞移植を行うこともあります。
造血幹細胞とは、全ての血液細胞のもととなる細胞です。造血幹細胞移植とは、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍や再生不良性貧血などの血液の病気に対して、全身放射線照射や抗癌剤を投与した後に、自分またはHLA(白血球の血液型)が一致した他人の造血幹細胞を体に入れる治療法です。移植といっても、肝臓移植や腎臓移植などのように手術で行うわけではなく、点滴や注射で血管の中に血液細胞を入れるもので、病室内で行われます。
造血幹細胞移植には、細胞を採取する場所の違いで、以下の3種類があります。
- 骨髄移植:骨の中にある骨髄から造血幹細胞を採取します。
- 末梢血幹細胞移植:白血球を増やすG-CSFというお薬を使うことによって、末梢血にでてきた造血幹細胞を採取します。
- 臍帯血移植:赤ちゃんのへその緒から造血幹細胞を採取します。
また、造血幹細胞移植には、ご家族や骨髄バンクのドナーさんなど、元気な方から幹細胞をもらう同種移植と、自分の正常な幹細胞を前もって採取しておいて、治療の後に自分の体に戻す自家移植があります。
移植の前には、抗癌剤や全身放射線照射等を組み合わせた治療(移植前処置と呼ばれています)を行います。そのため、体を感染から守る白血球という血液の成分が一時的になくなってしまいます。さらに同種移植の場合は、移植した造血幹細胞が患者さんの体から拒絶されないように免疫抑制剤も使用するため、感染症にかかりやすくなっています。そのため、患者さんには一定期間無菌室に入っていただきます。その間は、輸血や、血液成分の回復を促進する様な支持療法をしながら、造血能の回復を待ちます。自家移植の場合は、免疫抑制剤を使う必要がありませんので、完全な無菌室で行う必要はなく、準無菌管理の個室で行うことが一般的です。
自家移植は、移植前処置として投与される大量の抗癌剤の効果に期待する治療ですが、同種移植では、抗癌剤の効果以外にもドナーさんのリンパ球(白血球の一種)が白血病細胞/腫瘍細胞を攻撃してくれるという効果もあります。これを移植片対白血病/腫瘍(GVL/GVT)効果といいます。その反面、ドナーさんのリンパ球が患者さんの体自身を攻撃してしまうという副作用が起こることもあり、これを移植片対宿主病(GVHD)といいます。
現在は、造血幹細胞移植も多様化してきており、私たちは、患者さんの病態にあわせてそれらの中から最適な移植法を選択しておこなっています。
急性白血病
急性白血病とは?
急性白血病は、造血幹細胞が様々な血球に分化していく過程で異常がおこり、分化をやめてしまった細胞(白血病細胞)が骨髄中で増殖する病気です。簡単にいうと血液の”がん”といったところです。急性白血病では、血液細胞をつくる工場である骨髄が、悪者である白血病細胞に占拠されてしまうので、製品(正常な血球)を作ることができなくなってしまいます。そのため、末梢血中の正常な白血球・赤血球・血小板が減ってしまい様々な症状があらわれます。急性白血病は、治療をしないで放置していると命にかかわる状態となります。
症状
赤血球が減ることによる、動悸、息切れ、ふらつきなどの貧血症状、正常の白血球が減ることによる発熱などの感染症状、血小板が減ることによる出血症状などが急性白血病の主な症状です。その他にも肝臓・脾臓などの臓器がはれたり、リンパ節やはぐきがはれたりすることもあります。
診断
骨髄検査を行って、白血病細胞(芽球)が増加していることを確認することにより診断されます。急性白血病は、急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病に大別され、染色体や遺伝子検査などによってさらに細かく分類されます。
治療
急性白血病の治療の基本は抗がん剤治療になりますが、使用する抗がん剤は急性白血病の種類によって異なります。抗がん剤は、白血病細胞を減らすことを目的として投与しますが、同時に正常の血球(白血球・赤血球・血小板)も減らしてしまいます。そのため、治療開始後一定の期間は、感染症にかからないようにするために個室で治療を行ったり、熱が出たときには早めに抗生剤を使用したりします。また、赤血球や血小板の減少に対しては、適宜輸血などの支持療法を行います。治療が効いて白血病細胞が減ると、正常の血液を作る能力(造血能)が回復します。十分に白血病細胞が減って正常造血が回復した状態を「寛解」とよびます。ただし「寛解」は「治癒」という意味ではありません。寛解になったからといってすぐに治療をやめてしまうと、体のなかに潜んでいた白血病細胞が再び増殖してしまいます。そのため抗がん剤による治療を繰り返し行って根治を目指します。また、抗がん剤治療のみでは根治が困難であることが予想される種類の白血病の場合には、同種造血幹細胞移植が考慮されます。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫とは?
悪性リンパ腫は、白血球の一種である「リンパ球」という細胞が腫瘍化(がん化)して異常に増える病気です。リンパの”がん”というと、胃がんや肺がんなどのリンパ節転移を想像される方もおられるかと思いますが、まったく別のものです。悪性リンパ腫は、あくまでも血液細胞であるリンパ球自体が腫瘍化した病気です。
症状
もっとも多い症状はリンパ節がはれる(しこりができる)ことです。体の表面から触れるところでは、首のまわり、わきの下、足の付け根などのリンパ節がはれることが多いです。また、お腹の中や気管の周りのリンパ節など、体の表面からはわからない場所のリンパ節がはれることもあります。その他にもリンパ球は胃や大腸などの消化管、肝臓、骨髄、肺、皮膚、眼、鼻、脳など、からだのいたるところに存在するため、腫瘍ができた場所によって症状もさまざまです。また、進行の早いタイプの悪性リンパ腫の場合は、熱が出たり、寝汗をかいたり、体重が減ったりすることも少なくありません。
診断
はれているリンパ節をとって顕微鏡で調べることにより診断されます。悪性リンパ腫は、大きく分けるとホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分かれますが、染色体検査や表面マーカー、遺伝子検査などの結果によりさらに細かく分類されます。進行のスピードも年単位でゆっくり進行するものから、数日〜週単位で進行するものまであります。悪性リンパ腫と診断がついた場合には、PET/CTなどの画像検査や、骨髄検査、胃・大腸内視鏡検査などを行い、病気の広がりを確認します。
治療
悪性リンパ腫の治療は、リンパ腫の種類や病気の広がり具合によって変わります。病変が限局している時には、放射線治療単独または、放射線治療に化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせた治療を行うのが一般的です。病変が広がっている場合には抗がん剤による治療が主体となります。また、これらの治療だけでは十分な効果が得られなかったり、治療後にリンパ腫が再発した場合などには、造血幹細胞移植や自分のリンパ球を利用した治療法(CAR-T細胞療法)を行うこともあります。逆にゆっくり進行するタイプのリンパ腫の場合には、症状が出るまで治療をせずに経過をみることもあります。このようにリンパ腫の治療は多彩ですが、リンパ腫の種類や患者さんの年齢・病状に応じて治療を選択していきます。
多発性骨髄腫
多発性骨髄腫とは?
リンパ球が成長して免疫グロブリンというタンパクを産生するようになった細胞を「形質細胞」と呼びますが、多発性骨髄腫は、この形質細胞が腫瘍化(がん化)した病気です。免疫グロブリン(抗体)は、細菌やウイルスなどの外敵から体を守るはたらきを持っていますが、腫瘍化した形質細胞は役に立たない免疫グロブリンばかりを産生するため、正常な免疫グロブリンが減少してしまい免疫能が低下します。高齢の方に多い病気で、多くは60歳以上で発症しますが、まれに若い方に発症することもあります。
症状
もっとも多い症状は骨の症状です。腫瘍化した形質細胞は骨を作る細胞のはたらきを抑え、骨を壊す細胞を活性化するため、骨がもろくなってしまいます。そのため軽い衝撃でも骨折してしまう病的骨折をおこしたり、骨の痛みを伴うこともあります。また、骨が溶けることにより血液中のカルシウム値が異常に高くなって、喉の乾き、意識障害、腎機能障害をおこすことがあります。また、骨髄中で形質細胞が増えることにより正常の血球を作りにくくなるため、貧血となり動悸や息切れなどの症状がみられることがあります。さらに、白血球の低下や正常の免疫グロブリン低下による免疫能の低下により感染症を起こしやすくなります。病気の初期では特に症状がなく検診の血液検査の異常などでたまたま見つかることもあります。
診断
血液や尿検査で、異常な免疫グロブリンを検出し、骨髄検査で形質細胞が増えていることを確認して診断します。まれに、骨髄中では形質細胞の増加がなく、体のどこかに腫瘍の固まりつくっていることもあり、その場合はその固まりをとって調べることで診断します。
治療
貧血・腎機能障害・骨病変・高カルシウム血症などがなく無症状の多発性骨髄腫の場合は、無治療で経過観察するのが一般的ですが、症状がある場合には治療を行います。標準的な治療は腫瘍化した形質細胞を減らすために行う化学療法(抗がん剤治療)です。また腫瘍の固まりによる症状が強い場合に局所的に放射線照射を行うこともあります。最近は、サリドマイド、レナリドミド、ボルテゾミブなど、多発性骨髄腫に対する新しい治療薬が登場しており、高い効果が得られるようになっていますが、いずれも根治が期待できる治療ではなく、病気をじょうずにコントロールするというのが目的となります。また、比較的若年の患者さんに対しては、自家末梢血幹細胞移植が考慮されます。
再生不良性貧血
再生不良性貧血とは?
再生不良性貧血は、血液細胞のもととなる造血幹細胞が減ってしまうことにより、正常な血球を作ることができなくなってしまう病気です。つまり、血液細胞をつくる工場である骨髄が休業状態となり、製品(正常な血球)を作ることができない状態です。再生不良性貧血には、原因がはっきりしない特発性のものと、薬物(抗生剤、解熱鎮痛剤など)、ウイルス感染、有機溶媒などが原因で起こる続発性のものがあります。この病気は難病に指定されているので、申請をして受理されれば、医療費の補助を受けることができます。
症状
正常な血球(赤血球・白血球・血小板)が減ることにより様々な症状があらわれます。例えば、赤血球が減ることによる動悸、息切れ、ふらつきなどの貧血症状、白血球が減ることによる発熱などの感染症状、血小板が減ることによる出血症状などがみられます。
診断
末梢血で血球が減少する病気はたくさんあるため、それらの鑑別のために骨髄の検査(骨髄穿刺や骨髄生検)を行います。骨髄中の血液細胞が減少していて、かつ他の疾患がないことを確認することにより診断します。ただし、骨髄異形成症候群や発作性夜間ヘモグロビン尿症などという病気と鑑別が困難なことも多く、途中でそれらの疾患に病態が変わることもしばしば見られます。
治療
再生不良性貧血は、血球の減少の程度により軽症・中等症・重症(やや重症・重症・最重症)にわかれ、治療法はそれぞれの重症度や年齢によって異なります。軽症・中等症の場合には無治療で経過観察することもありますが、シクロスポリンなどの免疫抑制剤や蛋白同化ホルモンによる治療が行われることもあります。またこれらの治療と共に、輸血やG-CSF(白血球を増やす薬)などによる支持療法も適宜行います。重症の場合は、40歳未満で血縁者のドナーがいる場合には同種造血幹細胞移植が推奨されます。40歳以上、または40歳未満でも血縁者ドナーがいない場合には、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やシクロスポリンによる免疫抑制療法を行います。免疫抑制療法が効かない場合には、同種造血幹細胞移植を行うこともあります。またトロンボポエチン(TPO)受容体作動薬も2017年より使用可能となり、主に中等症以上に対して、単剤もしくは免疫抑制剤と併用して用いられるようになりました。
骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群とは?
骨髄異形成症候群は、血液細胞のもととなる造血幹細胞の異常で、うまく正常な血球に成長していけなくなる病気です。つまり、血液細胞をつくる工場では、頑張って血液細胞を作ろうとしているのですが、材料に異常があって不良品ばかりができてしまうため、製品(正常な血球)として世(末梢血)に出せない状態です。この病気は、骨髄中の芽球(未熟な血液細胞)の割合によっていくつかの種類に分類されますが、芽球の割合が多い種類は急性白血病に移行することがあります。また、骨髄異形成症候群は、加齢とともに増える傾向があります。
症状
再生不良性貧血や急性白血病と同様に、末梢血の正常な血球が減ってしまうことに伴う症状があらわれます。つまり、赤血球が減ることによる動悸、息切れ、ふらつきなどの貧血症状、白血球が減ることによる発熱などの感染症状、血小板が減ることによる出血症状などがみられます。血球減少が軽度の場合には無症状のことも多く、健診などで偶然見つかることもあります。
診断
末梢血や骨髄中の血液細胞を顕微鏡でみて、形態異常(異形成)を有する細胞の有無や芽球の数などを調べます。明らかに形態が異常であれば診断は容易ですが、ときには再生不良性貧血などの他の血球減少を来す病気との区別が難しい場合もあり、染色体検査や遺伝子検査などの検査結果も含めて総合的に判断します。また、診断に際して、芽球の割合・染色体異常・血球減少の程度に応じて(急性白血病へ移行する危険性についての)リスク分類が行われます。
治療
骨髄異形成症候群の治療は、病気の状態や年齢によって様々です。急性白血病へ移行するリスクの高さと患者さんの全身状態に応じて治療方針が決定されます。例えば、症状がなく、血球減少の程度が軽い場合には無治療で経過観察することもあります。特に高齢の方の場合には積極的な治療を行わずに、赤血球や血小板の減少に対して、輸血のみを行うことも少なくありません。芽球が増えていないタイプの骨髄異形成症候群では、再生不良性貧血と同様に、蛋白同化ホルモンによる治療や、シクロスポリンなどの免疫抑制剤を用いることもあります。また、近年では主に貧血が主体の場合にはエリスロポエチン製剤を用いられることもあります。一方、芽球が増えるタイプの骨髄異形成症候群では、抗がん剤を用いることがあります。急性白血病へ移行する可能性が高いと予想されたり、輸血が頻回に必要となっている場合、移植が可能な年齢・全身状態の患者さんでは、根治を目指して同種造血幹細胞移植が考慮されます。
慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病とは?
慢性骨髄性白血病は、血液細胞のもととなる造血幹細胞の異常によって、造血に歯止めがかからず、必要以上にどんどんと血球が作られてしまう病気です。成熟した血球のみが増えている状態を慢性期といいますが、そのまま無治療でいると、病気が進行して血球の成長(=分化)障害も起こって芽球(未成熟な血球)が増え、急性白血病と同様の状態(=急性期)に移行します。
症状
慢性期はほとんど症状がなく、健診や他の疾患の検査中などに偶然血球の増加を指摘されて見つかることが多いです。急性期になると、逆に末梢血中の正常血球が減ってしまい、急性白血病と同様に、貧血症状、感染症状、出血症状などの症状があらわれます。
診断
慢性骨髄性白血病は、病気の原因となる遺伝子異常がわかっているため、骨髄または末梢血で慢性骨髄性白血病に特徴的な染色体異常(フィラデルフィア染色体)や遺伝子異常(BCR-ABL融合遺伝子)を確認することで診断されます。
治療
無症状の慢性期であっても、放っておくと最終的には急性期に至ってしまうため、進行を抑えるための治療が必要です。以前は同種造血幹細胞移植が治癒を期待できる唯一の治療法でしたが、現在は発症原因となっている遺伝子の働きを抑えるチロシンキナーゼ阻害剤による治療が可能となりました。チロシンキナーゼ阻害剤には、第1世代のイマチニブ、第2世代のダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、第3世代のポナチニブの5種類があり、患者さんの状況に応じて薬剤を適宜選択します。これらの薬剤は、いずれも内服薬であり、極めて有効性も高く、多くの患者さんが急性期に移行することなく、外来で治療を継続することができるようになりました。また、深い治療効果が得られた一部の患者さんでは、チロシンキナーゼ阻害剤を中断しても再発しないことが近年報告されており、患者さんによっては、チロシンキナーゼ阻害剤のみでも治癒が得られる可能性がでてきています。ただし、治療中断後に一定の割合で病気が再燃することがあり(この場合も治療を再開することで速やかに白血病細胞は消失します)、治療中断に関しては主治医の先生とよく相談する必要があります。急性期に移行してしまった場合や、始めから急性期で病気が見つかった場合には、チロシンキナーゼ阻害剤のみの治療では不十分なため、急性白血病のように抗がん剤を併用した治療を行い、年齢によっては同種造血幹細胞移植が考慮されます。
自己免疫性血小板減少症
自己免疫性血小板減少症(ITP)(別名:特発性血小板減少性紫斑病)とは?
ITPは、体の中で自分の血小板に対して攻撃をしてしまう抗体ができてしまい、血小板が減ってしまう病気です。免疫が関与しているため、最近では自己免疫性血小板減少症とも呼ばれています。ITPは、急性型と慢性型に分類されます。急性型は感染症などをきっかけに発症し、ほとんどは無治療でも自然に治ります。慢性型は半年以上血小板減少が持続するもので、成人ではほとんどがこの慢性型です。ITPは難病に指定されているので、申請をして受理されれば、医療費の補助を受けることができます。
症状
出血を止めるはたらきをもつ血小板が減少するため出血症状が主な症状になります。例えば、ぶつけてもいなのにあざができたり、皮膚に点状の出血班がでたりします。また、鼻血や歯ぐきからの出血がみられることがあります。
診断
血小板が減る病気はたくさんあります。そのため、急性白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、ウイルス感染症、薬剤性血小板減少、血栓症などの凝固異常に伴う血小板減少など、他に血小板減少をきたす病気がないことを確認する必要があります。
治療
急性型では、ほとんどが自然に改善するため、出血傾向が強くなければ経過観察となります。慢性型でも血小板数がある程度(通常3万/μl以上)保たれていて出血傾向がなければ無治療で経過観察を行います。つまり、治療の目標は血小板数を正常化させることではなく、重篤な出血をおこさない程度の血小板数を保つということです。慢性ITPの中には、胃の中のヘリコバクター・ピロリという菌が原因となっている場合があるため、検査でピロリ菌が確認された場合には抗生物質と胃薬を一週間内服してピロリ菌を除菌します。ピロリ菌に感染していないか、除菌をしても血小板が増加しない場合には、ステロイドというお薬で治療を行います。ステロイド治療でも効果が不十分な場合には、ロミプロスチムやエルトロンボパグオラミンなどの血小板の造血を刺激する薬剤による治療やリツキシマブという自分の血小板に対して攻撃をしてしまう抗体を減少される薬剤による治療、血小板が壊される場である脾臓を手術でとる治療があります。これらの治療はどれも長所と短所があるため、患者さんの合併症やライフスタイルにあわせて選択していきます。
血友病
血友病とは?
血友病は、血液中に存在する凝固因子(血を固めるのに重要な役割を果たす物質)が減ってしまい、血が固まりにくくなる病気です。血友病には先天性のものと後天性のものがあります。先天性血友病には、生まれつきの遺伝子異常により凝固因子のひとつである第8因子が低下する血友病Aと、第9因子が低下する血友病Bがあります。先天性血友病の原因遺伝子は、性別を決める性染色体上にある関係から、患者さんのほとんどは男性です。後天性血友病は、体の中で、凝固因子のはたらきを抑えてしまう抗体(インヒビター)が作られてしまう病気です。
症状
血液を固める凝固因子が不足しているため、出血症状が認められ、皮膚に大きなあざができる他に関節内や筋肉内などが中心となります。関節内で出血を繰り返すと関節の変形や拘縮をきたし、それを血友病性関節症とよびます。
診断
凝固因子活性(凝固因子のはたらき)を測定して、第8因子(血友病A)または第9因子(血友病B)が低下していることを確認して診断します。また、血友病は、凝固因子活性の低下の程度によって、軽症・中等症・重症に分けられます。健康な人では凝固因子は100%ですが、軽症では5〜40%、中等症では1〜5%、重症では1%未満となります。後天性血友病の場合は第8因子を抑えるインヒビターの存在を確認することにより診断されます。
治療
先天性血友病の治療は、足りない凝固因子を、凝固因子製剤で補うという補充療法が行われます。軽症の場合は、日常生活で問題となることがほとんどないため、定期的な補充療法は行わず、手術や抜歯など出血を伴うような時だけ凝固因子製剤を投与することがほとんどです。中等症、重症になると、関節出血などが出現するため、関節の症状に応じて凝固因子製剤を投与したり、症状がなくても定期的に凝固因子製剤を投与したりします。近年、第8因子ではないけれど第8因子と同じはたらきをする抗体医薬が開発され、出血予防効果も高いため非凝固因子製剤としてよく使われるようになっています。後天性血友病の場合は、凝固因子に対するインヒビターができてしまっているので、低下している凝固因子とは違う凝固因子を投与して別の経路で血を固めるようにします。また、インヒビターの産生を抑えるために免疫抑制剤を使用します。
HIV感染症/エイズ
※北海道大学病院は、北海道エイズ治療ブロック拠点病院に指定されており、主に血液内科で診療をおこなっております。HIV感染症/エイズに関する内容は当院で作成している「北海道HIV/AIDS情報」のホームページ(https://www.hok-hiv.com/)をご参照ください。