臨床研究

  • 移植後シクロホスファミド(PTCY)を用いたGVHD予防法の確立
  • 低用量の抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を用いた末梢血幹細胞移植におけるGVHD予防法の確立
  • CAR-T療法
  • 肝類洞閉塞症候群/肝中心静脈閉塞症(SOD/VOD)の診断における超音波検査の有用性の検討
  • 当科で参加している多施設臨床研究

移植後シクロホスファミド(PTCY)を用いたGVHD予防法の確立

同種造血幹細胞移植は急性白血病などの血液悪性疾患や再生不良性貧血などの血液良性疾患に治癒をもたらしうる有用な治療法であるが、適切なドナーがいなければ実施することはできない。ドナー選択にはHuman Leukocyte Antigen(HLA)の一致度が重要であり、同種造血幹細胞移植に最も適したドナーはHLA適合血縁ドナーである。しかし、HLA適合血縁ドナーが得られるのは一部のみであるため、第2選択として骨髄バンクを介したHLA適合非血縁ドナーが、第3選択として臍帯血移植やHLA半合致移植が適応となる現状がある。

HLA半合致移植はHLAハプロタイプのうち1本を共有するドナーからの移植であり、同胞では50%、親子では100%の確率でHLA半合致ドナーとなるため、ほぼすべての患者においてドナーが得られる可能性があるというのが大きな利点である。しかしHLA適合移植と比較して、移植細胞によるレシピエントへの反応である移植片対宿主病(GVHD)や、レシピエントの免疫細胞による移植細胞への反応である拒絶のリスクが高いことからこれまでは十分に普及してこなかった。近年、GVHDを引き起こすT細胞を除去する一方、感染症に関わるT細胞は比較的温存できる可能性がある方法として移植後シクロホスファミド(posttransplantation cyclophosphamide, PTCY)が開発され、世界中で急速に行われるようになっている(1)。

北海道大学病院では、2013年よりJSCT研究会において本邦におけるPTCYの有効性と安全性を検討するための複数の全国多施設共同第II相試験を実施してきた。最初に行ったHaplo13試験では、当時米国では中心であった骨髄ではなく、末梢血幹細胞(PBSC)を用いてもPTCYは優れたGVHD抑制効果を示すことが報告した(2)。引き続き骨髄破壊的前処置(MAC)を用いるHaplo14 MAC試験と、強度減弱前処置(RIC)を用いるHaplo14 RIC試験の2つからなる全国多施設共同第II相試験を実施した。(3)MAC試験ではフルダラビン(Flu)90 mg/m2 + 全身放射線照射(TBI)12 GyまたはFlu 150 mg/m2 + ブスルファン(BU)12.8 mg/kg + TBI 4 Gyを、RIC試験ではFlu 150 mg/m2 + BU 6.4 mg/kg + TBI 4 Gyを移植前処置として用い、移植細胞源としてはPBSCを、GVHD予防はHaplo13試験と同様にPTCY(50 mg/kg, day 3, 4)+ タクロリムス(day5-)+ ミコフェノール酸モフェチル(day 5-)の投与を行った。MAC試験では50例を対象とした解析を行い、生着率98%、II-I度の急性GVHDは18%、III-IV度の急性GVHDは8%、慢性GVHDは36%、2年時点での全生存率(OS)は68%、無イベント生存率(EFS)は54%、非再発死亡(NRM)は10%であった。またRIC試験では77例を対象とした解析を実施し、生着率94%、II-IV度 の急性GVHDは14%、III-IV度の急性GVHDは5%、2年時点での慢性GVHDは27%、2年時点でのOS 44%、EFS 35%、NRMは20%であった。MAC試験、RIC試験ともにGVHD、NRMは十分に低く、PTCYを用いたHLA半合致移植PBSCTにおいてMAC、RICはいずれも有用な選択肢であることを報告した。通常HLA半合致移植では免疫抑制剤を生涯使用することも少なくないが、本試験では移植後2年時点での免疫抑制剤中止割合が80%を超えていた点も特筆すべきである。

さらに我々はPTCY 80 mg/kgへの減量を試み、2つの前向き多施設共同第II相試験(Haplo16 RIC試験、Haplo17 RIC試験)を連続して実施した。(4)本試験では移植前処置は先行研究であるHaplo14 RIC試験と同一のFlu 150 mg/m2 + BU 6.4 mg/kg + TBI 4 Gyからなる移植前処置を用い、GVHD予防は移植後3日目、4日目に40 mg/kgのPTCY投与、day5からはタクロリムスとミコフェノール酸の併用を行った。先行研究であるHaplo14試験と比較し、grade IIの急性GVHD、mildの慢性GVHDが増加する可能性があるように思われるが、grade III-IVの急性GVHD、moderate to severeの慢性GVHDは変わらない印象である。PTCYの減量によりGVL効果の増強が得られるのかどうかについてはさらなる検討が必要であるが、PTCYでは重症GVHDの抑制効果が優れていることから、grade IIの急性GVHDやmildの慢性GVHDなど許容可能なレベルのGVHDを増やすことでGVLを誘導するような治療戦略にも期待がもたれる。

このようにHLA半合致移植においてPTCYは有効性、安全性とともに優れたGVHD抑制効果を示していることからHLA半合致移植以外の同種移植においても有用である可能性がある。現在、我々は特定臨床研究として「HLA適合または1-2 allele不適合ドナーからの同種末梢血幹細胞移植における移植後シクロホスファミドを用いたGVHD予防法の有効性と安全性を確認する第Ⅱ相臨床試験」(5)を実施しておりその結果に期待がもたれている(図1)

図:PTCY19試験のプロトコール概要

Reference

1)Sugita J. HLA-haploidentical stem cell transplantation using posttransplant cyclophosphamide. Int. J. Hematol. 2019;110(1):30–38.

2)Sugita J, Kawashima N, Fujisaki T, et al. HLA-Haploidentical Peripheral Blood Stem Cell Transplantation with Post-Transplant Cyclophosphamide after Busulfan-Containing Reduced-Intensity Conditioning. Biol. Blood Marrow Transplant. 2015;21(9):1646–1652.

3)Sugita J, Kagaya Y, Miyamoto T, et al. Myeloablative and reduced-intensity conditioning in HLA-haploidentical peripheral blood stem cell transplantation using post-transplant cyclophosphamide. Bone Marrow Transplant. 2019;54(3):432–441.

4)Sugita J, Kamimura T, Ishikawa T, et al. Reduced dose of posttransplant cyclophosphamide in HLA-haploidentical peripheral blood stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2020.

5)https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCTs011190009

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低用量の抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を用いた末梢血幹細胞移植におけるGVHD予防法の確立

造血器悪性腫瘍を“根治”に導く治療である同種造血幹細胞移植では、移植ソースとして骨髄、末梢血幹細胞、臍帯血から選択される。 このうち末梢血幹細胞移植(PBSCT)では、他の移植ソースと比較し、GVHD、特に慢性GVHDの増加が大きな課題として挙げられる。 抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を用いたGVHD予防法は、海外のランダム化比較試験にてPBSCTにおけるGVHDの抑制効果が示されてきたが、 最適なATGの投与量は確立されていない。我々はHLA適合PBSCTのパイロット研究で、GVHD予防におけるATGの投与量を検討し、 Thymoglobulin 2mg/kgの低用量投与によって、GVHDの誘導に関与するナイーブT細胞の抑制効果が得られることを見出した。(1) この結果を基に多施設共同第II相試験(JSCT-ATG15)を行い、移植後100日におけるIII度以上の重症急性GVHDの発症率が1.4%、 移植後1年における中等症~重症の慢性GVHDの発症率が5.6%と、低用量ATGの優れたGVHD抑制効果を示した(下図)。(2) また非血縁者間PBSCTに対する全国調査を施行し、低用量ATG投与群では非投与群と比べ慢性GVHDの発症率は低率で、 無GVHD無再発生存率も優れていることを明らかにした。(3) また当院の症例での解析および全国調査での解析の両方において、ATG投与前のリンパ球数はGVHDや再発の予測因子となることが示唆された。(3,4) このことよりATGを用いたGVHD予防における今後の展開として、リンパ球数に応じてATGの投与量を調整する“個別化治療”への発展の可能性が期待される。

図:抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリンを用いたHLA適合ドナーからの同種末梢血幹細胞移植の他施設共同第Ⅱ相試験(JSCT-ATG15)

Reference

1)Shiratori S, Kosugi-Kanaya M, Hayase E, Okada K, Goto H, Sugita J, Onozawa M, Nakagawa M, Kahata K, Hashimoto D, Endo T, Kondo T, Teshima T. T-cell depletion effects of low-dose antithymocyte globulin for GVHD prophylaxis in HLA-matched allogeneic peripheral blood stem cell transplantation. Transpl Immunol 2018; 46: 21-22.

2)Shiratori S, Sugita J, Ota S, Kasahara S, Ishikawa J, Tachibana T, Hayashi Y, Yoshimoto G, Eto T, Iwasaki H, Harada M, Matsuo K, Teshima T; Japan Study Group for Cell Therapy and Transplantation (JSCT). Low-dose anti-thymocyte globulin for GVHD prophylaxis in HLA-matched allogeneic peripheral blood stem cell transplantation. Bone Marrow Transplant. 2021; 56: 129-136.

3)Shiratori S, Sugita J, Fuji S, Aoki J, Sawa M, Ozawa Y, Hashimoto D, Matsuoka K, Imada K, Doki N, Ashida T, Ueda Y, Tanaka M, Sawayama Y, Ichinohe T, Terakura S, Morishima S, Atsuta Y, Fukuda T, Teshima T: Low-dose antithymocyte globulin inhibits chronic graft-versus-host disease in peripheral blood stem cell transplantation from unrelated donors. Bone Marrow Transplant. In press.

4)Shiratori S, Ohigashi H, Ara T, Yasumoto A, Goto H, Nakagawa M, Sugita J, Onozawa M, Kahata K, Endo T, Hashimoto D, Teshima T. High lymphocyte counts before antithymocyte globulin administration predict acute graft-versus-host disease. Ann Hematol. 2020 Online ahead of print.

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CAR-T療法

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肝類洞閉塞症候群/肝中心静脈閉塞症(SOD/VOD)の診断における超音波検査の有用性の検討

肝類洞閉塞症候群(Sinusoidal Obstruction Syndrome: SOS)/肝中心静脈閉塞症(hepatic Veno-Occulusive Disease: VOD)は造血幹細胞移植後に発症する重篤な合併症のひとつである。SOS/VODを発症すると致死率が極めて高いため、早期に診断・治療を行うことが重要とされているが、黄疸、肝腫大・右季肋部痛、腹水・体重増加などの指標を用いた臨床診断では早期診断が困難であった。
SOS/VODの確定診断には経皮的/経静脈的肝生検が重要となるが、移植後の血小板減少や凝固異常、SOS/VODによる血小板輸血不応により施行困難である場合が多い。さらには生検を施行できてもSOS/VODに典型的とされる肝中心静脈の血栓性閉塞を証明できない場合も多い。
超音波検査(US)は侵襲なく肝臓サイズや血管径、血流状態を評価可能であることからSOS/VODの診断に有用であるとの報告がなされ、2016年、2019年に欧州骨髄移植学会(EBMT)から発表されたSOS/VOD診断基準に組み入れられた。しかし、USは測定方法、評価方法が一定ではなく、その標準化が望まれてきた。

これまで北海道大学病院では検査・輸血部の西田睦らを中心としSOS/VOD診断におけるUSを用いたスコア化の有用性を検討してきた。2010年より単施設による臨床試験を開始し、2018年にUS 10項目をスコア化したHokUS-10によるSOS/VOD診断における有用性を報告した[1]。HokUS-10は世界的にも認知されつつあるが、単施設での検討のため多施設での検証も必要であること、HokUS-10では項目数が多く煩雑であることから6項目まで減らしたHokUS-6の有用性についても現在、検討を開始し、多施設前向き臨床試験を行っている。

Reference

1)Nishida M, Kahata K, Hayase E, et al. Novel Ultrasonographic Scoring System of Sinusoidal Obstruction Syndrome after Hematopoietic Stem Cell Transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2018;24:1896-900.

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当科で参加している多施設臨床研究

研究課題名 登録開始
登録
造血細胞移植および細胞治療の全国調査(TRUMP) 2018/7/1
(疫学調査)北海道の血液疾患発生状況の把握: NJHSG registration protocol 2019/4/1
造血幹細胞移植
北日本血液研究会における臍帯血移植の前向き観察研究(NJHSG-CBT18) 2018/7/1
HBV既往感染歴を有する同種造血細胞移植レシピエントに対する、HBワクチンによるHBV再活性化予防法のランダム化検証的試験 2018/9/1
同種造血幹細胞移植後の抗ヒト胸腺細胞グロブリン体内動態および免疫パラメーターの解析 2018/4/1
同種造血幹細胞移植後の卵巣機能評価 2016/10/1
HLA適合または1-2 allele不適合ドナーからの同種末梢血幹細胞移植における移植後シクロホスファミドを用いたGVHD予防法の有効性と安全性を確認する第Ⅱ相臨床試験 JSCT PTCY19 2020/3/1
体外式超音波検査のスコア化による肝類洞閉塞症候群(SOS)/中心静脈閉塞症 (VOD)診断の多施設共同前向き観察研究 2021/2/1
急性白血病
急性白血病における遺伝子変異と治療反応性・白血病発症機序の解明(北海道白血病ネット) 2016/5/1
急性前骨髄球性白血病に対する治療プロトコール FBMTG APL2017 2017/1/1
成人急性リンパ性白血病に対する治療プロトコール JSCT-ALL/MRD2019 2020/1/1
骨髄不全・骨髄異形成症候群等
難治性造血器疾患の病態解明と診断向上を目的としたオミクス解析 2017/10/1
HIV
HIV感染同性愛者における急性C型肝炎の解析 2017/8/3
ELISA法による血清抗赤痢アメーバ抗体検査の必要性・有用性に関する多施設共同横断検討 2019/6/19
Multiplex PCR法を用いたAIDS患者における髄液中病原体の網羅的解析 2020/5/1
血友病
エミシズマブ定期投与中のFVIIIインヒビターを保有しない先天性血友病A患者における,身体活動及び出血イベント,日常生活の質,安全性を評価する多施設共同,前向き観察研究 2020/1/22
成人血友病患者の合併症に関する縦断的研究 2020/5/19
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