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分子血液グループ

バイオイメージングを用いた慢性骨髄性白血病の薬剤感受性試験の開発
血液内科・分子血液グループ 近藤健
CML治療の現状

慢性骨髄性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia, CML)は9番染色体と22番染色体が相互点座を起こすことによって、bcr-ablという融合遺伝子が形成されることで発症します。
2000年頃までは骨髄移植やインターフェロンが治療として行われましたが、5年生存率は70%程度でした。
2001年にチロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine Kinase Inhibitor, TKI)であるimatinibが登場し、治療成績は飛躍的に向上しました。初発慢性期CMLのimatinibによる治療成績は5年生存率90%以上となっており、imatinibは最も成功している分子標的薬剤と言えます。

しかしながらimatinib治療にも一部の症例では、副作用で治療継続が出来ない(不耐容)症例や、治療が十分に効かない(薬剤耐性)症例が生じることが分かってきました。
この問題を克服するために、二世代TKIであるdasatinib、nilotinibが開発され、imatinib不耐容や耐性が克服出来るだけでなく、imatinibよりも優れた治療効果があがることが示され、現在では初発慢性期CMLの治療にはimatinib, ndasatinib, nilotinibの3剤が使用出来るようになっています。

今後も更に新たな薬剤が臨床の場に登場すると予想されています。

図:バイオイメージングを用いた慢性骨髄性白血病の薬剤感受性試験の開発

Imatinib薬剤耐性

Imatinibが登場して10年以上経過し、その薬剤耐性機序についても解明されてきました。
Imatinibは経口薬剤ですので、内服して消化管からの吸収、肝臓での薬物代謝によって血中濃度が変化します。
血中濃度については、2012年より保険診療で測定が可能となりましたので、個々の患者さんに適正な血中濃度を維持する投薬量を設定することが可能となってきています。
血中濃度以外に、CML細胞自体の異常でimatinibが効かない耐性機序があります。

これまでの報告では、imatinib耐性については
1)bcr-abl依存性耐性、
2)bcr-abl非依存性 に分けられています。

bcr-abl依存性耐性機序については、bcr-ablに変異が生じることによりimatinibの効果が無くなる場合、また、bcr-abl遺伝子が増幅し過剰発現することでimatinibの効果が不十分になる場合があります。
一方、bcr-abl非依存性耐性機序については、bcr-ablとは別に、他の癌遺伝子が活性化することでbcr-abl非依存的に細胞増殖が誘導される場合や、imatinibの細胞内濃度が低下するような細胞表面のトランスポーターの異常が示されています。

図:Imatinib薬剤耐性

臨床現場での課題

薬剤耐性機序については実験的には種々の機序が示されていますが、最も代表的な遺伝子変異については、imatinib耐性CML-CPでは40%程度しか生じていないことが明らかになっています。
また、他の癌遺伝子の活性化、薬剤トランスポーターの発現や細胞内薬剤濃度については解析方法が煩雑で、臨床現場にはなかなか導入しにくい問題があります(遺伝子変異については、保険適応はありませんがコマーシャルベースで実施可能です)。

Imatinib耐性CMLではnilotinibやdasatinibを使用することになります。 遺伝子変異の種類によって、nilotinib, dastinibの感受性は異なりますが、変異が無い症例(慢性期CMLでは変異の無いケースは約60%程度とされています)では、治療を行って効果判定をするまでは、どちらの薬剤が効果あるかは予測出来ない状況です。
また、現在は初発CML-CPでは、3剤のTKIが使用出来るようになり(今後は、もっと選択肢が増えるかもしれません)、治療前にどの薬剤が最も効果が期待出来るかといったことが判れば、第一選択薬を個々の患者さんの白血病細胞の薬剤感感受性によって使い分けるテーラーメイド医療を実践できることになります。

図:臨床現場での課題

FRETを用いた薬剤感受性試験の開発

薬臨床的なimatinib耐性の問題点、および、初発未治療CML症例にどのTKIを選択するかといった問題点を解決する、ひとつのアプローチとしてCML細胞の薬剤感受性試験を腫瘍病理学講座 大場雄介博士との共同研究で開発しました。
CMLはBCR-ABLによって発症しますが、BCR-ABLはチロシンキナーゼという、細胞内の種々のタンパクのチロシン残基をリン酸化する機能を持っています。Imatinb, nilotinib, dasatinibはBCR-ABLのチロシンキナーゼ活性を阻害することで効果を発揮します。

私たちはBCR-ABLによってリン酸化される基質の一つであるCrkLを改変して、BCR-ABLのキナーゼ活性を高感度に検出出来る蛍光プローブPicklesを作製しました。 このプローブでは、CrkL分子の両端に青色蛍光プローブCFPと黄色蛍光プローブYFPを配置しています。CrkLはBCR−ABLによってリン酸化されますが、非リン酸化状態ではPicklesは440nmで励起すると、CFPが励起され青色蛍光で発色します。
一方、CrkLがBCR-ABLによってリン酸化されると分子の3次元構造が変化するために、CFPとYFPが非常に近寄った状態になります(10nm以内と考えられます)。このときに440nmで励起するとCFPのエネルギーがYFPの励起に変換され、YFPの黄色蛍光が発色する現象が観察されます。
この現象をFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)といいます。
従って、PicklesをCML細胞に導入すると、BCR-ABL活性依存的にYFPの蛍光が観察され、この細胞をTKIで処理するとFRETが阻害されCFPの蛍光が観察されます。

本研究は、蛍光タンパクを世界で初めて薬剤感受性試験に用いたものとして注目を浴び、米国癌学会および本学においてPress releaseを受けました。

http://www.aacr.org/home/public--media/aacr-press-releases.aspx?d=1940
http://www.hokudai.ac.jp/news/2010/07/lab-3.html

図:FRETを用いた薬剤感受性試験の開発

Picklesによる薬剤感受性試験の有用性の検討

これまでimatinibについては、本感受性試験が臨床的治療効果に相関することが示唆されています。現在、初発慢性期CMLに対してnilotinib, dasatinibの感受性が本試験で予測出来るかどうかについて第II相臨床研究に附随した開発研究を行っています(UMIN000006358, UMIN000007351)。本試験によって、FRETの有効性が明らかになれば、未治療の患者さんに最適の薬剤を選択出来るようになると思われます。

図:Picklesによる薬剤感受性試験の有用性の検討